兄と会う日時と場所の調整は、全て湊がやってくれた。
その日、湊に1人でも大丈夫と話していたのによっぽど心配だったのか、湊も一緒に来てくれた。
「湊も、病院があったのにいいの?」
「ああ。星南を1人で行かせるわけにはいかないから。
それにまだ、不安なんだろう?
ずっと会っていなかったんだから余計。」
湊の言葉に、何も言い返せなかった。
湊が隣にいてくれるだけで、安心するから。
それに、わざわざ私を呼び出してまで話さなければいけない話の内容が想像もつかない。
ずっと会っていなかった。
私を遠ざけていた兄。
今更、何の話があるっていうの。
「星南。ここだ。」
車に揺られること30分も経たない内に喫茶店に着いた。
「あの人だ。」
湊の視線の先を見ると、黒いスーツを身にまといコーヒーを飲む男性が目に入った。
「こんにちは。星南。湊先生。」
綺麗な洋装に、ブランド品を身にまとっている。
このきつい香水の香りは、あの母親を思い出す嫌な香りだった。
そんな兄を見て、私は心底嫌な気分へと変わった。
「そんな怖い顔しないで、星南。」
「軽々しく、私の名前を呼ばないで下さい。」
「何で?
今まで、名前で呼んでただろう?
それに、お前の兄貴なんだから妹のお前をなんて呼ぼうと俺の勝手だろう?」
ああ。
何年経っても、この人は何ひとつ変わっていない。
この、私を見下すような言い方も。
この私を軽蔑するような目付きも。
手に冷や汗をかく私に気づいたのか、湊は私の手を優しく握ってくれていた。
湊は優しい眼差しを、私へ向けてくれていた。
「あの。話って何でしょうか?
星南を、傷つけるような内容でしたらここで失礼したいのですが。」
「まあまあ、そんなに焦らなくてもいいじゃないですか。
ゆっくり話をしましょうや。」
「あなたと、ゆっくり話をするつもりはありません。
なるべく、手短にお願いします。」
「チッ。」
舌打ちをした兄は、スーツの内胸ポケットから封筒を取り出した。
「お前、ここにサインをしろ。」
「えっ?」
出された書類の内容は、腎臓移植に関する物だった。
「これって、どういう?」
「お前と、母親の血液型は同じだろう?
おまえが、今すぐ腎臓を移植するといえば母親は助かる。
母親は、もう何年も前から腎不全に陥ってずっと前から透析をしている。
あまり、時間がないらしい。
早めの移植が必要らしいんだ。透析の治療をしても病状が改善する様子もない。」
お母さんが、腎不全?
兄の話す言葉に、全く頭が追いついて来なかった。
だって。
一緒に暮らしていた時だって、体調が悪い素振りなんて1つもなかった。
「あの、いつから。」
「は?」
「いつから、母は身体の調子が悪かったの?」
「あー、お前が産まれる前からな。」
そう言って、兄は寂しそうに俯き溜息を着いた。

