本当は、ずっと前から気づいていた。
咳だって出ていた。
呼吸も苦しかったし、顔色の悪さにも気がついていた。
それでも、大丈夫と自分に言い聞かせていた。
それでどうにかなる問題でもないのに。
病気のコントロールを失い、また病院に戻ることがたまらなく怖かった。
初めてここに来た日のことを思い出してしまうから。
それに、前にいた小児科でもない。
新しい場所で、知らない医者や看護師と関わることが怖かった。
「星南?」
「バイトもあるの…」
「え?」
入院から逃れるために、苦し紛れに出てきた言い訳。
「バイト、生活費を稼ぐためにバイトしてるの。
バイトだってずっと入ってるのに休めないよ。」
「お前な…。
さっきの話聞いてなかったのか?
そんな状態でバイトでもしてみろ。
倒れることは目に見えて分かる。
さっきも言ったよな、生活費や入院費の事は心配するなよ。
俺が、これから星南の人生を支えていくから。」
「勝手なことばかり言わないで。
身内として払うとか私の人生を支える?
どうしてあんたがそこまでするのよ!
あんたになんて関係ないでしょう!
ただの赤の他人で、今の私はただ患者なわけで。
一夜を過ごした相手だから?
同情ならやめてくれる?」
あれ…
どうして…
こんなに涙が、溢れ出てるわけ?
感情まで、コントロールを失ってると言うの?
「同情なんかじゃないよ。
星南。
いいか、お前と出会った時からお前を同情の目で見たことなんてない。
初めて出会った頃からずっと、星南のことを1人の素敵な女性としてお前を見てる。
1人の男として守りたいんだ。」
「一夜を過ごしたからでしょ?
その夜がなかったら、こうして私を引き止めたりなんてしてないでしょう?
私は1人で生きていけるし、あんたの手を借りなくても…」
そう言いかけてすぐ、止めどなく咳が出てきた。
声を張ったせいか、何が引き金となって発作が出たのか分からない。
苦しい…
こんな感覚…
こんなに苦しかったんだっけ?
忘れかけていた喘息の発作。
「星南!大丈夫だから!」
私は、自分の意思とは反対に湊に助けを求めるように白衣を握りしめていた。
この苦しさを、どうにかしてほしくて。
「星南…。
川嶋さん!吸入器と酸素の準備。それから、点滴も。急いで!」
湊は、奥にいた川嶋さんを再び診察室へ呼んだ。
「星南…。
星南!頼むから、意識だけは保っていてくれ。」
途切れ途切れになる意識の中、湊は私に声をかけながらも優しく抱き寄せ、規則正しく背中をさすってくれていた。
それから間もなく、点滴をされ酸素投与と吸入器を口元に当てられていた。

