聞き間違いだろうか。
「今なんて?」
「だから、今日からしばらく入院をしてもらう。」
「えっ?」
「聞こえなかった?
今日からしばらく…」
「……無理。」
「え?」
「入院は無理。できない…。」
入院できるほど、今はお金に余裕はない。
それに、高校だってある。
バイトだって毎日のように入っているのに…。
お小遣いと少しでも生活の足しを稼ぐために、男と体を重ねているだけで。
生活費と学費のほとんどはバイト代で何とかやりくりをしていた。
さすがに、私もそこまで酷い生活をしているわけでもない。
「星南、どうして無理なんだ?」
「無理なものは無理。
私にも、私なりの理由があるの…。
関係の無いあんたが、知る必要もないでしょう?」
「……川嶋さん、悪いんだけどちょっと席外してくれる?」
「え?」
「ちょっと、この子と話がしたいから2人にさせてくれる?
それから、後に待っている患者さんがいたら姉貴に回してくれるように外来師長に話してくれる?」
「…分かりました。」
「そんなことして…」
「事情聴取だ。
逃げられないから、覚悟しろよ。」
真剣な表情をしながら、視線は1ミリも外してもらえない。
その捉えられた視線からも逃れることなんて出来ない。
それから、川嶋さんが外来の師長さんを呼び湊と話をしてから再び診察室は静まり返った。
「星南、黙ってたら分からない。
入院が嫌な理由を話してくれ。」
黙秘を貫き通せたらどれだけ良いか。
だけど、この緊迫した空気に耐えきれる訳もない。
「入院なんてできるほど、余裕が無い。
これでいい?
分かったなら、離してくれる?」
話すまでこの腕は離さないと言わんばかりに、湊は私の両腕をしっかり押さえていた。
「余裕が無いって、金銭面でっていうことか?」
「そうだけど。だから、入院なんて無理。
分かったなら離してよ。」
「悪いけど、それは出来ない。
金銭面のことなら心配するな。
俺が、星南の身内として払うから。」
「何言って…」
「そう難しく考えなくていいよ。
とにかく、星南。
お前は未成年なわけで、親の同意を得られないのであれば病院側の判断になる。
星南、お前はきっと今まで1人で受け止めてきたんだろうから、正直に包み隠さずに話す。
星南。きっと、今の顔色を見て薄々勘づいているんじゃないのか?
呼吸もずっと前から苦しかったんじゃないのか?
咳だって、少なくとも出ていたはずだ。
今は咳は出ていないけど、喘鳴もあるし肺音もかなり悪い。
こんなに冷たい手をして、顔も青白い。
酸素飽和度だって、90%を切ってる。
相当、身体の中に酸素が足りていない状態なんだよ。
星南は病気で慣れているんだろうけど、健康の人だったら苦しくて耐えきれない程だ。
だから、一刻も早く酸素投与の治療と喘息の治療が必要なんだ。
ここは、俺の顔を立てて入院してくれないか?
何も、心配しなくていいから。」

