「はい、ジュース」

『カタン、カラン、カラン……』

 お兄ちゃんが、氷の入ったオレンジジュースをテーブルの上に置いてくれる。

「ありがとう、お兄ちゃん」

 お兄ちゃんは、私の座っている小さなテーブルの斜め横に、胡坐(あぐら)をかいて座る。

「若菜、早かったな」
「うん、朝一番の新幹線に乗ってきた」

 氷で冷たくなったコップを両手で包むように触れると、その涼を手の平から感じた。

「そうか、そんなに早く来なくても良かったんだけどな」

 お兄ちゃんはそう言ったけど、4ヶ月会えなかった気持ちが抑えきれなかったんだ。

「だって、お兄ちゃんと早く会いたかったんだもん……」

 私がそう言うと、お兄ちゃんはちょっとビックリしているよう。

「そ、そうか……。じゃあ、夕方までお兄ちゃんが夏休みの宿題を見てやるよ」
「それは、後でいい。それよりも、お兄ちゃんに夕方まで東京観光に連れて行ってほしい」

「東京観光?」
「ダメ……?」

 私はお兄ちゃんの方を向き、上目遣いでお兄ちゃんの瞳を見つめながらお願いしてみる。

「あっ、いや。いいよ……。そうだよな、せっかく東京に来たんだもんな。勉強だけして帰るのもな。じゃあ、東京観光するか!」
「うん! やったぁーっ! うれしい! お兄ちゃん大好き!」

 そう言いながら、勇気を振り絞って、昔みたいにおにいちゃんに抱き付いた。
 本当は、すごく胸がドキドキして、張り裂けそうだった……。

 以前よりも体が一段と大きくなり、逞しくなっているお兄ちゃん。
 抱き付いたお兄ちゃんの肩越しからは、懐かしい心落ち着く爽やかな香りがふわっと香ってくる。
 お兄ちゃんのこの匂いが好き……。

 部屋の中でふたりきり、くっついたまま、一瞬時が止まったような気がした。

『カラン……』

 ガラスのコップの中にある氷が揺れ、音を立てて時を再び動かす。

 ふたりはゆっくりと体を離してゆく。
 お兄ちゃんはすごく照れてたけど、私を昔のように、やさしく受け入れてくれた。

 それがとっても


 嬉しかったんだ……。