最寄の駅から在来線で、新幹線のある大きな駅で乗り継ぎ、お兄ちゃんのいる東京へと向かう。
 東京駅に着くと、スマホを頼りに、山手線から地下鉄を経由して、お兄ちゃんのアパートを目指す。

『ガラガラガラガラ……』
「お兄ちゃんの住むアパートは、地図からすると、この辺りだけど……。あっ、あった! ここだ……。『あんぱんアパート』って、変な名前……」

 お兄ちゃんの部屋は、2階の3号室。
 『2、3(にい、さん)』と、憶えやすい部屋番号だ。

『カン、カン、カン、カン……』

 私は重いキャリーケースを抱えながら、アパートの2階まで、階段を上がってゆく。
 そして、お兄ちゃんの住む部屋の前で、一度、身なりを整えて深呼吸してから、緊張しながら呼び鈴を鳴らす。

『ピンポーン』

「は~い、どちら様ですか~?」

 部屋の奥の方から、懐かしいお兄ちゃんの声がする。

(もうすぐ、お兄ちゃんに会える……)

 私はバクバクする心臓を押さえながら、お兄ちゃんが出てくるのを待つ。

『ガチャ』

 久しぶりに見るお兄ちゃん……。
 う~ん、やっぱり顔はやさしくてかっこいい……。
 下の方は……。

「きゃっ! お兄ちゃん、パ、パン……ツ……」
「あっ! わ、若菜!? あっ、ご、ごめん! 暑くてズボン脱いでた……。は、早かったな……」

 私は視線をお兄ちゃんから逸らし、少しモジモジしながら答える。

「う、うん……。久しぶりだったから、お兄ちゃんに早く会いたくって、早く来ちゃった……」
「そ、そうか……。ちょ、ちょっと待ってて、今ズボン履くから……」

 お兄ちゃんは、慌てていた。
 まさか、私がこんなに早く来るとは、思っていなかったよう。

 約束の時間は夕方だったので、ちょっと早過ぎちゃったみたい。
 お兄ちゃんは、慌ててズボンを履き、部屋の中のゴミをササッと片付けていた。

 あの綺麗好きで、何でも完璧なお兄ちゃんのイメージとはちょっと違っていたけど、でもそんな慌てているお兄ちゃんもとってもかわいい。

 私はこの部屋の玄関の中で、久しぶりに再会する大好きなお兄ちゃんの姿を見つめながら、いつの間にか笑顔になっていた。