大好きなお兄ちゃんが、東京へ引っ越して行ったのは3月の下旬。
 それから、4ヶ月ほどお兄ちゃんには一度も会えていない。

 会いたくなかった訳じゃない。
 毎週でも会いに行きたかった……。

 今まで10年以上、いつも一緒に隣にいたお兄ちゃん……。
 私がいじめられた時には、いつもお兄ちゃんが守ってくれた。

 お兄ちゃんは、私の思いに気付いてないと思うけど、
 私の小さな胸は、いつもドキドキしていたんだよ……。

 お兄ちゃんのことを考えると、涙が止まらなくなる。

 私はずっと、お兄ちゃんのことが大好きだったんだ……。



『トゥルルルルルル……、トゥルルルルルル……』

 その始まりは、お兄ちゃんからの一本の電話がきっかけだった。
 私のスマホに表示される『お兄ちゃん♪』の文字。

(あっ……、お兄ちゃんからだ……)

 ドキドキする気持ちを抑えて、右手を胸に当てながら、一度咳払いをしてから電話に出る。

「もしもし、『若菜(わかな)』です」
『あっ、若菜。俺、『龍之介(りゅうのすけ)』兄ちゃんだけど、久しぶり』

 お兄ちゃんのやさしい声。久しぶりに聞く。

「あっ、お兄ちゃん。ひ、久しぶりだね……」
『あのさ、若菜にちょっと頼み事があるんだけど、ちょっと時間いいかな?』

「えっ? 頼み事?」
『ああ、実はさ、……』

 東京へ行ったお兄ちゃんと直接電話で話すのは、4ヶ月ぶり。
 私は、電話に出る前から、お兄ちゃんからの電話に、胸がドキドキしていた。

 お兄ちゃんは、180cm以上ととても背が高く、私の目から見るとやさしい顔をしたイケメンタイプで、スポーツも出来て、おまけに頭もすごくいい、私の理想そのものなんだ。
 自分の頭の中で、お兄ちゃんのことをかなり美化しているかもしれないけれど、こんな素敵な男性が兄であることがとても誇らしいし、隣同士で歩くと、皆(うらや)ましそうに私たちを見る。

 そんな自慢のお兄ちゃんだ。

 そして、お兄ちゃんは東京のとある大学の医学部に合格して、この4月から東京に一人引っ越していたんだ……。