東京都庁の展望台に差し込む日の光が、徐々にオレンジ色へと変わってきた。私たちふたりの影も、床に少しずつふたつ長く伸びてゆく。

 今日、私はこの後、合コンでお兄ちゃんの彼女になる。
 大学生の合コンがどんなところなのか分からない。不安もある。

 でも、今日はお兄ちゃんの彼女を演じるんだ。
 それは私が望んでいることでもあるから……。

「俺たちの実家は、あっちの方かな?」

 お兄ちゃんが夕日を眩しそうに、目を細めながら指を差してそう言う。
 お兄ちゃんの横顔が夕日に当たり、オレンジ色に染まっていた。

 指差した方の山を見ながら、お兄ちゃんはこんな話をしてくれた。

「小さい頃、空の向こう側って、どうなってるんだろうと思って、どこまでも若菜と一緒に手を(つな)いで歩いて行ったことあったな……」

「そんなことがあったんだ……」

「結局、何も見つけられなくて、夜になって警察の人に助けてもらってさ……」

 お兄ちゃんは、そう言いながらクスッと笑った。

「お兄ちゃん、夢は叶うと思う?」

「信じれば、叶うんじゃないかな。(あきら)めずに信じ続けた者だけが、夢を叶えるんだと思う」

 お兄ちゃんのその言葉に、瞳から自然と涙が零れて、頬を伝ってゆく。
 お兄ちゃんに分からないように、その涙を素早く親指で(ぬぐ)い取ると、実家の方を指差し、こう言った。

「お兄ちゃん、またあの空の向こう側へ、一緒に行こう」

 すると、お兄ちゃんは私の肩を抱いて答えた。

「ああ、また一緒に行こう」