私たちは、お兄ちゃんの提案で、東京都庁の展望台へと向かった。
 その展望台へ登ってみると、そこから見える景色は、まさに絶景。

 背の高いビルや低いビル、(あり)んこみたいな車や人々、そして、遠くにはどこか知らない少し(かす)んだ山々が見える。
 田舎では絶対に見られないような絶景が、そこには広がっていた。

「うわぁ~、すご~い。本当に高いねぇ~」
「そうだろ。色々、ここから見えるんだぞ」

 展望台のガラス窓から、遠くの方に東京スカイツリーを発見!

「あっ、お兄ちゃん! 東京スカイツリーが見えた!」
「あ、ほんとだ。今日は、良く見えるなぁ~」

 展望台のガラスに両手をつき、眼下に広がるその絶景を眺めていると、お兄ちゃんは、少し離れた位置から展望台の下の方を見ている。
 私はお兄ちゃんの隣まで少しずつ近づいて行き、肩が触れ合うくらいまでの距離になる。

 そこで、私は勇気を振り絞って、お兄ちゃんの気持ちの核心を突く。

「お兄ちゃん、こっちで彼女作らないの?」

「んっ? 俺、そういうの苦手だから。だから、今日もそれを断るために、若菜に協力してもらおうと思って呼んだんだ」

 お兄ちゃんは、この景色を眺めながら、今回の経緯を説明してくれた。

 少し前に合コンがあり、そこで、先輩が狙っている女性がお兄ちゃんのことを好きだと告白してきたらしい。
 それでお兄ちゃんは、その女性に咄嗟(とっさ)に彼女がいるって、『ウソ』をついたんだ。でも、先輩はお兄ちゃんに彼女がいる気配がないため、今日の合コンでそれを証明するために、彼女を連れて来いということだったらしい。

「それで、私がお兄ちゃんの彼女として、今日、行くっていうわけ?」
「そうなんだ……。ほんと、ごめんな。若菜……」

 お兄ちゃんは、彼女がいるってウソをついて私をその『彼女の代わり』に……。
 でも、そんな風にしてくれることが私には嬉しい。

 今は、お兄ちゃんの彼女の代わりでもいい……。
 いつか、本当の彼女になれるように、お兄ちゃんとの距離をもっと縮めて行きたい。

「ところで、今日の帰りの新幹線の切符買ってあるのか? 何時が最終だっけ?」

 私は一瞬、言葉に詰まったけど、お兄ちゃんに微笑みながらこう言った。

「もう買ってあるよ。最終は10時だから」

 私は小さなウソをついた……。
 帰りの切符も買っていないし、最終電車も9時。

 それに、私は今日、あのアパートに泊まるということを、まだお兄ちゃんには話していない……。

 もうこれ以上……


 一人で泣きたくないから……。