中1の冬。

それまでの俺は、恋をしたことがなかった。

いや、人を好きになったことはある。

ただ、それを本当に恋と呼んでいいのか疑問なほど、薄っぺらい感情だった。

毎朝会う猫を可愛がるような、そんな感情に近かったと思う。

父の一件があって、女への苦手意識を持つようになってからは、その感情にすら出会ってない。

だから、俺が特定の女子を気にするのは、不思議以外の何ものでもなかったんだ。


その日、俺はクラスの友達と美術室で談笑していた。

「こらこら。また遊びに来てんのか。部活に行け」

美術の先生であり俺達のクラスの担任が美術室に戻ってきた。

「先生、ひっでー。提出物を出しに来たのに」

「おっ、ちゃんと持ってきてたのか」

棒読みで「偉い偉い」と褒める先生。

あまりの棒読みっぷりに笑いが起こる。