「引っ越しの前日の夜、暖乃が寝たあと帰ろうとした。だけど、部屋を出ようとしたらまた暖乃のそばに引き戻された」

「うそ……」

「残念ながら、ほんと。なんでだと思う? おれが離れたくねぇのかな。それとも、暖乃がおれのこと離したくないって思るから?」

「そんなこと――」

そんなことない、と、はっきり否定しきれなかった。

私はさっきまで、一貴さんにキスされながら透也の顔を思い浮かべていたんだから。


「おれ、ただ普通に家から出て暖乃に付いてきたつもりだったんだけど、ほんとに暖乃に憑いちゃったのかも」

透也がふっと息を漏らすのに合わせて、一貴さんの表情が歪む。


「暖乃のこと、千堂に渡したくない。暖乃がおれ以外のものになるなんて、想像すんのも嫌だ。おれが暖乃のこと幸せにしたい。なぁ、こういうのが未練ていうの?」

透也の言葉で、透也の表情で、一貴さんの香りに抱きしめられる。


「暖乃に直接触れるなら、千堂の身体でもいいやって。そう思うのはやっぱダメかな」

透也の言葉を肯定もできないけど、否定もできない。

「身体があるってだけで、ずるいよな。千堂のやつ。おれだって……、ていうか、おれのほうがずっと、暖乃のこと愛してるのに」

苦しげな声でそう言った透也が、パジャマのズボンのなかに手を滑り込ませてくる。

肌に触れる感触はたしかに一貴さんのものなのに、触れているのが透也だと思うと、それだけで身体中に電流が走るような痺れを感じる。