「暖乃、ちゃんとおれに集中しろよ」

ベッドに横たわってうわの空でいると、不意に掠れた低い声が鼓膜を揺らした。不機嫌さを含んだ乱暴な話し方は、一貴さんじゃない。


「……、とー、や?」

「ん」

呼びかけに平然と頷いた彼は、一貴さんの姿でベッドに組み敷いた私に、荒っぽく唇を重ねてきた。


「ダメ、って言ったのに」

「何が?」

「一貴さんに取り憑くの、……」

「だったら黙って見てろっていうのかよ。暖乃がこいつに抱かれてるとこ」

「だから、見ないでって……」

私の耳に唇を這わせた透也に最後まで反論しきれずに吐息が漏れる。


「あんな顔して見ないで、とか。逆効果だって思わなかった? 千堂のことだって、無駄に煽ってた」

「そんなこと、……」

「暖乃……」

切なげな声で私を呼んだ透也が、私の頭の横に両手ついて顔を起こす。


「おれ、ちゃんと帰ろうとしたんだよ」

「え?」

暗闇の中で目を凝らすと、僅かに眉間を寄せた一貴さんが苦しげに私を見下ろしていた。

見た目は一貴さんだけど、それは透也の表情そのもので。ドクンと心臓が大きな音をたてる。