「声が外まで聞こえてましたか?」
「あー、うん。何か話してるのかなーって程度。電話でもしてた?」
「あ、はい。そうなんです。ちょっと母から」
「そうなんだ? 引っ越し報告まだだったもんね。何か言ってた?」
「あ、えーっと。一貴さんと協力して仲良くやりなさいって」
本当は、母への引っ越し報告は簡単にメッセージで済ませた。今話したのは、母からきた返信の内容だ。
うまく誤魔化せただろうか。ヒヤリと背中が冷える。
けれど、一貴さんはベッド脇に不自然に立っている私を疑う様子もなかった。
一貴さんが私のことを100%信じきってくれているのはありがたいけれど、それはそれで少し心配にもなる。現に私は、ふたりの新居にこっそりと元恋人のユーレイを連れてきてしまっているのだから。
「落ち着いたら、暖乃のご両親にも遊びに来てもらわなきゃね」
一貴さんが、ベッド脇に立ったままでいる私を抱きしめてくる。
不貞腐れた顔でベッドで胡座をかいている透也の様子を気にしながら「そうですね」と答えると、一貴さんが熱のこもった眼差しをじっと私に向けてきた。
お風呂上がりの一貴さんの身体は、私を抱きしめたことでさらに火照って熱くなっている。
きっと、このままキスされる。そんな予感に身体を震わせると、案の定、一貴さんの唇が落ちてきた。



