「一貴さん……!?」
「なんか、暖乃が可愛い顔してたから」
シンクのほうに向きなおりながら、一貴さんがふふっと笑う。
一貴さんからの不意打ちのキスに、私の頬は時間差で熱く火照っていった。その隙に、一貴さんは洗い物を始めようとしている。
私は横から一貴さんのスポンジを奪うと、洗剤の付いたそれを照れ隠しに、手のひらでぎゅぎゅっと何度も握りしめた。
「洗い物、一緒にしましょう」
スポンジから吹き出す泡を見ながら提案すると、一貴さんが微笑む。
「じゃぁ、そうしようか」
水を出すために動いた一貴さんの腕が私の腕と軽くぶつかる。
引っ越しまでの1ヶ月間は、透也のことを気にしてあまり一貴さんとの時間が作れなかったから、些細なことでドキドキしてしまう。
これからずっと、こんな生活が続いていくのだろうか。相手が一貴さんだからということもあるのだろうけれど、結婚生活というのは想像していた以上に甘いらしい。
スポンジで擦ったお皿の泡を丁寧な手付きで洗い流していく一貴さんにちらっと視線を向ける。
そのとき、彼の向こうで仁王立ちしている透也が見えてぎょっとした。



