ため息を吐きながら、シチューと一緒に出す予定のサラダの準備をしていると、玄関のドアが開く音がした。


「あ、帰ってきた」

『早いじゃん』

私の声に、不服げな透也の低い声が重なる。


「わかってると思うけど、一貴さんがいるときは余計なこと話しかけてきちゃダメだからね? あと、一貴さんの体に勝手に取り憑くのも禁止」

玄関に向かう私に付いてこようとする透也に強めに釘を刺すと、透也はむっとした顔で方向転換して寝室のほうへと飛んでいってしまった。

私が一貴さんを優先させたから不貞腐れたのだろうけど、少しくらい放っておいても黙っていなくなったりはしないだろう。

寝室に消えていく透也の透けた背中を見送ると、私は急いで玄関へと向かった。


「おかえりなさい」

「暖乃、ただいま」

ちょうど靴を脱いで玄関に上がってきたところだった一貴さんが、エプロン姿で出迎えた私をぎゅっと抱き寄せる。

そのまま頬や唇にキスを落とされてくすぐったさを感じながら、透也が出迎えに付いてこなくてよかったと思った。