「ねぇ、透也。本当に、いつまでいるつもりなの?」

一貴さんが家にいるときは、気軽に透也とは話せない。

だから、一貴さんが不在のときを見計らって何度か訊ねているのだけれど……。


『暖乃はおれに消えて欲しいの?』

片眉を下げた透也に悲しげな声で言われると、それ以上は強く出れなくなってしまう。


「消えてほしいわけじゃないよ。そうじゃないけど……」

『心配しなくても、タイミングを見計らってちゃんと帰るよ』

透也は口では何度も『帰る』と言うけれど、本当に帰るつもりがあるのだろうか。

曖昧な言い訳を続けて、このまま私たちの新居に居座り続けるつもりなのかもしれない。

透也に『暖乃が千堂のところに引っ越すときに、おれも帰る』と告げられたあの日。なんだかんだ言っても透也は最後に私の幸せを願って背中を押してくれるのだと思って感動した。

だけど……。透也が引っ越しが終わっても一向に帰る気配がないから、あの日の感動が少しずつ薄れつつある。

引っ越しまでの1ヶ月間を透也との思い出作りに時間を割き、引っ越しの前日の夜は透也と「さよなら」する切なさで枕を涙で濡らしたというのに。

私の1ヶ月分の切なさと涙を返せ!