「透也、これ飲み終わったらどこ行く?」

飲めないホットラテに付き合ってくれている透也に笑いかけたとき、テーブルに置いていたスマホが震えた。

上向けに置いていたスマホの画面に表示されているのは一貴さんの名前で。透也とのデートで浮かれていた気持ちが、現実に引き戻される。

テーブルの上で震えるスマホを取ろうとすると、透也が温度も感覚もない手を私の手に重ねてきた。


『出るの?』

透也が不満そうに私をじっと睨み上げてくる。

迷いながらコクンと頷くと、透也がスマホに手をかける私の手をぎゅっと握りしめてきた。

でもそれは視覚的にそう思えるだけで、物理的な拘束力はない。

今日の透也とのデートは一時の感情に流されてつられてきてしまっただけで。私が見るべき相手は婚約者の一貴さんだ。

頭ではわかっているのに、空気を揺らすだけの透也の手がもっとちゃんと私を縛ってくれればいいのに、と我儘な心が願ってしまう。


「私、今日1日ずっと、一貴さんのこと忘れてた」

透也との時間が楽しくて。昔に戻ってみたいで、懐かしくて。


『じゃぁ、このままずっと忘れとけばいいじゃん』

透也に切なげな目で訴えられて、スマホの通話ボタンを押すことができない。