『やべーやつ見た、って顔されてる』
「透也のバカ」
けらけらと笑い転げている透也が憎たらしい。
でも透也が他人の目に見えていても見えていなくても、私たちの日常的なデートはたぶんこんな空気だった。
いつまでも私を揶揄って笑う透也はちょっとうざくてムカつくけど、懐かしくてとても愛おしい。
ふーっと息をついたとき、劇場内の照明が落ちて辺りが少しずつ暗くなっていった。
恋愛映画の内容は原作小説に忠実に作られていて、透也の好きな若手女優演じるヒロインはとても可愛かった。
映画の前半は横からちょくちょく私に話しかけてきていた透也は、中盤を過ぎた頃から次第におとなしくなっていって。真面目に見ているのかな、と思ったら途中で寝落ちていた。
座ったまま私のほうに頭を傾けて眠る透也の首が痛くならないのか心配だったけど、肩を貸してあげようにも透也の頭がすり抜けてしまうからどうしようもない。
そもそも、ユーレイは首とか痛くなるのかな。
映画そっちのけで透也の寝顔をしばらく見つめてから、透也の頭が私の肩にのっているように見えるいい感じの位置にまで身体をずらす。
実際には透也の頭の重みは感じないけれど、そうするだけで透也に肩を貸しているような気分だけは味わえた。



