『早く着替えれば。ぐずぐずしてたらさっきの店員さんが様子見に来るよ』
「透也が出て行ったら着替えるよ」
『それはあきらめろ』
「なんでよ!」
『いいから早く着てみろよ。それ、暖乃に似合うと思う』
壁にかかったスカートに視線を向けて顎をしゃくった透也が、にこっと笑う。
「そう、かな……」
少し高い位置にいる透也に愛おしげな眼差しを向けられているような気がして、胸がきゅっとときめいてしまう。
生きていた頃から私との買い物にはよく付き合ってくれた透也だけど、私が選んだ服を褒めてくれることはたまにしかなくて。試着時点で透也に『似合う』と褒めてもらった服は、予算オーバーでもついうっかり買ってしまうことが多かった。
『いいじゃん、可愛い』
外に出て行ってもらうつもりだったのに。
すっかり絆された私が着替えて見せると、ふわりとそばに寄ってきた透也が私の横から鏡を覗き込みながら満足げに笑う。
滅多に褒めてくれない分、たまに褒めてくれるときの透也の『可愛い』は200パーセント本心。それを知っている鏡の中の私の顔がじわりと赤くなる。
あーあ。今日は服を買うつもりはなかったけど、こんなふうに嬉しそうに褒められたらお買い上げ決定だ。
「お客様、いかがですか?」
カーテンの向こうから店員のお姉さんに声をかけられて、考えるよりも先に言葉が出た。
「これ、気に入ったのでお願いします」
「ありがとうございます」
にこにこ笑顔の店員のお姉さんからスカートを購入すると、複雑なため息を溢しながら透也と一緒に店を出た。



