『なんだよ。どうせ、おれとデートしたら千堂に悪いとか思ってんだろ』
浮かない顔をしていると、透也がちょんっと指先で弾いてくる。
その指が直に当たったわけでもないのに、なんとなく弾かれた場所が痛い気がした。
『平気だって。もし会社の同僚とか知り合いに会っても、おれは暖乃以外には見えないわけだし。千堂におれとのデートのことはバレねぇよ』
「バレるとかバレないの問題じゃないよ」
『あっ、そ。じゃぁ、このまま家でダラダラしとけば』
不機嫌そうに片眉を下げた透也が、私の布団からさーっとすり抜けていく。
透也が機嫌を損ねたのは、はっきりしない態度をとった私のせいなのに。自分勝手にも、透き通った彼の背中が離れていくのが淋しいと思ってしまう。
本音を言うと、透也からのデートの誘いはすごく嬉しい。だけど、一貴さんのことを思うとチクリと胸が痛む。
透也と過ごす時間が増えれば増えるほど、一貴さんと結婚すると決めた自分の気持ちがブレていく気がする。
それなのに、透也からデートに誘われて揺れる気持ちを制御するのも難しい。



