「高沢さん、だったかな? 亡くなった藤沼くんの恋人だったんだよね。ずっと辛かったね。君だってうちの大切な社員なのに、こんなふうになるまでケアをしてあげられなくてごめんね」

そう言ってくれた一貴さんは、私を気遣うような優しい目をしていた。

ユーレイになって現れた透也は、一貴さんが弱っている私の心に付け込んだんだとか、簡単に引っかかった私がちょろい、なんて言ってきたけど。

パニックになった私を助けてくれたときの一貴さんには、透也が言うような下心なんてなかったと思う。

次期経営者になるという立場から、一社員でしかない私のことを本気で心配してくれていた。

私に心のケアが必要だと考えた一貴さんは、会社の産業医に私を紹介してくれた。

そこで1ヶ月の休養を言い渡された私は、仕事を休んでカウンセリングを受けながら、心と体の回復に努めることになった。

そうやって少しずつ普通にご飯が食べられるようになり、味覚も戻っていった。不眠の悩みも、最初は薬を飲みながらだったけれど徐々に改善していった。

一貴さんの配慮で仕事も時短勤務からゆっくり復帰させてもらうことができ、半年かけて元の勤務形態で働けるようになった。

一貴さんと親しくなり始めたのは、私が職場に完全に復帰をしてからだ。

一貴さんに感謝しかない私は社内で出会えば必ず挨拶するようになったし、一貴さんのほうも私を見つければ用がなくても声をかけてくれるようになった。