やっぱり透也はいないんだ。透也はもうどこにもいない。

どれだけ恋しくても、二度と会うことができない。

痛くて苦しい感情がお腹の底から一気に競り上がってきて、立ち上がるどころか顔をあげるのも難しい。

錯乱状態で床に蹲った私の嗚咽が、営業部に木霊する。

営業部の中には透也の同期で私との事情を知っている人だっていた。

けれど狂ったように泣いている私に近付いてくる同僚はひとりもおらず、私の嗚咽と電話の鳴る音だけが空気の凍り付いた部署内に響いた。

肌に刺さる同僚たちの視線を感じたけれど、泣くのをやめることも取り繕うこともできない。


「ほら、みんな仕事に戻って」

次々と湧き上がってくる情動を抑えきれずにいると、穏やかだけれど芯の通った声が止まってしまった営業部の動きを始動させた。


「大丈夫? ゆっくり息を吐いて」

営業部がざわざわと日常の動きを取り戻し始めた頃、誰かが私に近付いてくる。

取り乱した私の肩にブランケットをかけて優しく声をかけてくれたのが、当時営業部の本部長を務めていた一貴さんだった。

支えようとしてくれる手を拒否して暴れる私に、一貴さんは優しい声で根気よく話しかけ続けてくれた。

私が落ち着くまで、ずっとそばに付いていてくれた。