「今はあいつからもらった指輪してるんだな」
別に悪いことをしたわけじゃない。
それなのに、低くつぶやかれた声が。私の薬指の指輪をなぞる指先が。じわり、じわりと私に罪悪感を植え付ける。
「透也からもらった指輪だって、大切に持ってるよ。でも――」
一貴さんと付き合うことが決まってからは、ジュエリーボックスに保管したままだ。
取り出してみると、透也との思い出が蘇ってきそうで。透也にもらった指輪を入れたジュエリーボックスの蓋を、私はもう長いこと開けていない。
私の言葉が言いわけじみて響いたのか、透也が気だるそうにため息を吐く。
「あーあ。お前、なんでおれ以外のやつと幸せになろうとしてんだよ」
一貴さんの姿をした透也が、私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でる。
怒っているみたいな声で私をなじるくせに、一貴さんを通して私を見つめる透也が今にも泣きだしそうな気がして。胸が詰まる。



