「よかった。担当の方の話だと、早ければ2週間くらいで入居できるって。準備が整ったら鍵だけ受け取って、暖乃の準備が出来次第ゆっくり引っ越しすればいいと思う」
「わかりました」
「家具とか家電も見に行かないとね」
「そうですね」
「暖乃と早く一緒に暮らしたいな」
「私もです」
そう思う気持ちは嘘じゃない。嘘ではないけれど、今は少しだけ後ろめたい。
一貴さんに対してもだし、どこかに姿を消してしまった透也に対しても。
「これで仕事終わりだったら、送っていくよ」
「ありがとうございます」
「じゃぁ、帰る準備ができたら駐車場で。俺も荷物を取りに戻ってすぐ向かうから」
「はい」
複雑な気持ちのまま微笑むと、一貴さんが愛おしげに私を見つめて、ぽんっと頭に手をのせた。
私の髪を撫でてから去ろうとする一貴さんは、いつもと変わらず優しくて。透也の出現に惑わされている私の心に気付いていない。
これから結婚して夫婦になるというのに、一貴さんへの気持ちがぶれ始めていることが心苦しい。



