「これ、差し入れ」
一貴さんがオフィスのそばにあるコーヒーショップのロゴが入った紙カップを私のデスクに置いた。
「ありがとうございます」
「終わりそう? さっき社長室で竹下さんに会って、暖乃が残って資料の修正してくれてるって聞いたんだ」
「はい。あとは竹下さんに資料添付するだけです」
「そっか。確認させてもらっていい?」
デスクにトンッと手をついた一貴さんが、私の横からパソコンを覗き込んできた。
さっきまで透也がいた立ち位置に、今度は一貴さんがいる。
そのことが私を妙に落ち着かない気持ちにさせた。
そういえば、透也は……。一貴さんの出現に動揺して、透也のことを放置していた。
一貴さんに怪しまれないように周囲に視線を巡らせる。けれど、私の視界の範囲内から透也の姿が消えていた。
「いない……」
「暖乃?」
思わず腰を浮かしかけた私を見て、一貴さんが驚いたように目を瞬かせる。
眼鏡のレンズ越しに一貴さんにじっと見つめられて、私は小さく首を横に振ることしかできなかった。



