『ちょっと待て、暖乃。どうしてそういう話になってんだよ。おれは、千堂との結婚は認めないって言ったよな。今なら間に合う。すぐに断れ』
ぐぐっと額を押し付けるようにして迫ってくる透也から身を引いて、頬を引き攣らせる。
「そんなの、できるわけないでしょ」
透也に迫られてつい口を滑らせると、信号で車を止めた一貴さんが不審げに私のことを見てきた。
「できるわけないって、何が?」
「あ……、えっと……」
『今がチャンスだ。お前とは結婚できないって千堂に言え』
「もう、うるさい……」
うまい言い訳を探して困っている私の耳元で、透也がごちゃごちゃと騒いで私の頭を混乱させてくる。
「暖乃?」
「あ、いえ。別に何でもないんです。ちょっと耳鳴りがしただけで……」
慌てて耳元を振り払う仕草を見せると、一貴さんが心配そうに眉根を寄せた。



