「今日の部屋、最有力候補なだけあって今までで一番よかったよね。俺はあの部屋に決めてもいいんじゃないかと思うんだけど、暖乃はどう思う?」
内覧後に軽く食事を済ませて、自宅まで車で送ってもらう途中。一貴さんがさっき見てきたばかりの部屋についての話題を振ってきた。
透也の気配が気になって落ち着かない内覧だったけれど、一貴さんの言うとおり、部屋自体は今まで見てきたなかで一番よかったと思う。
タワーマンションの30階の部屋なんて私には贅沢過ぎるけど、一企業の副社長である一貴さんの立場を考えれば、それなりの部屋を選ばなければいけない。
「私も、今日見たところが一番よかったと思います。会社へのアクセスもいいですし」
運転席の一貴さんのほうを向いて笑いかけると、彼がちらっと私に視線を流しながら頬を緩めた。
「よかった。だったら、あの部屋に決めるってことを帰ってすぐに連絡しておくよ」
「お願いしま――――」
そう言いかけたとき、バックミラーに映る透也の青白い顔が見えてぎょっとした。
ミラー越しに私と一貴さんのことを激睨みしていた透也が、びゅんっとすごい勢いで私の目の前に飛んでくる。



