『暖乃。千堂なんかに気安く触らせんな。それで、今すぐこの家の内覧をやめろ』
そんなこと言われても……。悩んだ末にようやく決めた一貴さんとの結婚を、今さら白紙になんて戻せない。
『おい、暖乃。聞いてんのか?』
透也がずっとうるさく話しかけてくるけれど、彼の姿も声も私にしか視えていないようだから下手に反応できない。
なぜか突然姿が視えるようになった透也は、仕事中もずっと私のそばを付き纏い、一貴さんとの新居の内覧にまで付いてきていた。
『暖乃と千堂の結婚は断固阻止する!』
そう息巻いていた透也は、一貴さんが私に話しかけたり軽く触れたりするたびに飛びついてきて、一貴さんを威嚇している。
何も知らない一貴さんはずっとにこにこと笑っているけれど、事あるごとに透也に話しかけられたり睨まれたりする私は家を見ていても全く落ち着かず。
内覧を終えて不動産屋の担当者と別れる頃には、どっと疲れてしまっていた。



