「暖乃、お前。おれに断りもなく他の男と同棲計画立ててるとか、どーいうつもりだよ」
「どーいうつもり、って……」
不機嫌そうな顔の一貴さんが、ドアに手をついたまま首を横に傾ける。
目の前にいる人の姿は、たしかに一貴さんだ。
輪郭、目や鼻や口の造形、仕事仕様に整えた髪型、シワのない高級なスーツ。その全てが一貴さんでしかあり得ないのに、何かが違うのだ。
些細な仕草や言葉遣い、表情の作り方、それらは全て、3年前に亡くなってしまった恋人の透也を思わせる。
「もしかして、本当に透也なの……?」
「そうだけど」
一貴さんではあり得ない、ぶっきらぼうな返答の仕方に、心音がドクドクと乱れる。
「どうして……」
「おれだってよくわかんねーよ。どうして急に実家から出て暖乃のそばにいられるようになったのかもわかんねーし。どうして急にこいつの中に入れたのかも全然……」
「透也、私のそばにいたの?」
「いたよ。ずっと隣で暖乃に話しかけたり、触ってみたりしてたのに、お前、ムカつくくらい気づかなかったけどな」
透也を名乗る一貴さんが、僅かに眉間を寄せて苦笑いする。
その笑い方を見た瞬間、胸が締め付けられるほどに苦しくなった。
困ったように苦笑いした一貴さんの表情が、亡くなった元恋人の表情そのものだったから。



