嫌な予感に青ざめていると、急に一貴さんの目が虚ろになった。
あ、戻る。
感覚的にそう気付いた私は、一貴さんに近付いて彼が倒れてしまわないように正面から彼の身体を抱きとめる。
「あれ、暖乃? 俺、どこまで……」
額を抑えて頭を左右に振る一貴さんは、元の彼に戻っている。
「今、誓いのキスが終わったところです」
「え、そうだっけ?」
驚いたように目を瞬く一貴さんは、どこまでが一貴さんで、どこからが透也だったんだろう。
油断しすぎていて、変化に全く気付かなかった。
透也のことだから、まだその辺で私たちのことを見ているに違いない。
きゅっと眉を寄せて周囲を睨んでみたけれど、確かめる限り、チャペルの祭壇にも天井にも、光の差し込む窓ガラスの周囲にも、それから参列者たちのなかにも、透也らしき影は見当たらなかった。
「おかしいな。まさか、錯覚……?」
「どうしたの、暖乃?」
向かい合って互いにぶつぶつ言い合っている私と一貴さんを、祭壇の前の神父が怪訝な顔付で見てくる。
「続けてよろしいですか?」
咳払いした神父に急かされて、ハッとする。



