「透也。私たち、ちゃんと二度目のお別れをしようか」

『おれも、そうしたほうがいいと思ってた』

迷いのない声で告げると、透也が淋し気に目を細めてはっきりと頷く。


「私はやっぱり、一貴さんと結婚する。私のことをちゃんと想ってくれてる一貴さんのそばにいたい。これは、私の意志だよ」

『わかってる』

再会してから、私が一貴さんへの好意を口にすると不機嫌そうにしていた透也が、初めて嫉妬心を顔に出さずに笑ってくれる。

そのことにほんの少しだけ寂しさも感じたけれど、それ以上に、透也が本当の意味で私と一貴さんのことを認めてくれたような気がして嬉しかった。


『短い間だったけど、また暖乃と一緒に過ごせて楽しかった』

笑顔でそう言った透也が、私の頬に手を伸ばしてくる。

透也が視えるようになってから、何度も私に触れた、感覚も温度もない冷たい手。それが触れるのは、もうこれで最後。

本当の本当に、これでお別れだ。


「私も、透也に会えて嬉しかった」

淋しくて切なくて、瞼の裏が熱くなるけれど、今度はちゃんとお別れの覚悟ができている。


『暖乃の幸せを願ってる』

ふわりと宙に浮かんだ透也が、最後の最後で私の唇にそっとキスを落とす。

唇に触れる空気は、今までとは違って少し温かくて。透也との最後のキスにふさわしかった。