『何か暖乃、憑き物でも取れたみたいな顔してんな』
「ユーレイのくせに何言ってんの?」
ハッと息を吐いた透也にすぐさまそう返すと、彼が唇の端を引き上げてククッと笑った。
『おれさ、突っ込んできたバイクから千堂が暖乃のこと助けるの見てから、ずっと外で頭冷やしてた』
「そ、なんだ……」
『暖乃の言ってた自然なカタチ。その意味、本当はおれもちゃんとわかってたよ。今の暖乃のことをそばでちゃんと守ってやれるのは、おれじゃなくて千堂だってことも。なのに、悪あがきした。知ってると思うけど、おれ、暖乃のことすげー好きなんだよね』
薄っすらと透けて見える手のひらに視線を落とた透也が、不意に顔をあげてにっと笑いかけてくる。
透也の笑顔が、言葉が私の胸を締め付けて切なくさせる。
だけど、大好きな——。大好きだった透也に、もう揺らいだりはしなかった。
「私も、手放すのが惜しくてずっと迷ってあがいてばかりだったよ。私も、透也のことがすっごく大好きだったから」
『うん』
困ったように眉を寄せて、それでも穏やかに頷いた透也は、私の意志が固まったことに気付いていると思う。



