一貴さんが私をとても好きでいてくれることはよくわかっているつもりだった。
だけど、私は彼の本音をわかっているようで、わかっていなかったのかもしれない。
一貴さんは何があっても、私の気持ちを優先して無理強いしたりしないから。
私はこれまで、どれほど一貴さんの優しさに甘やかされてきたのだろう。
一貴さんと過ごした日々を思い出すと、胸がきゅっと痛くなる。
思わず、一貴さんの背中に腕を回して抱き着くと、彼が私の背中をポンポンとあやすように撫でてきた。
「ねぇ、暖乃。今俺が言ったことを踏まえたうえで、もう一度ちゃんと考えて。本当に俺と結婚ができるのかどうか。俺には暖乃以外と結婚の意志はないから、あとは暖乃の意志次第」
「え?」
「情とかそういうのは要らないから」
一貴さんの言葉にドキッとする。
婚約を破棄されるとしたら、どう考えたって優柔不断で身勝手な私のほうなのに。
それでもまだ私を選んでくれる一貴さんは、どれほど私に甘いんだろう。
「よく考えてね。暖乃の気持ち」
一貴さんの言葉が、胸にぐっときて息が詰まる。
私は一貴さんの胸に額を押し付けると、何度も小さく頷いた。



