私の腕のかすり傷に優しく口付ける一貴さんに、どう顔向けすればいいのかわからなくて、右腕で顔を覆う。
「ごめん、なさい……」
ボソリとつぶやくと、浅く息を吐いた一貴さんが、私の頭を抱き寄せて顔を覆う右腕を優しい力で退けた。
「俺は、暖乃が無事だったら何でもいいんだよ」
体勢を横向けに変えた一貴さんが、私の顔を覗き込みながら目を細める。
一貴さんは、勝手に飛び出していった私を庇ってケガをしたのに。そんなふうに言われてしまっては、申し訳がたたない。
泣きそうに表情を歪めると、一貴さんが私の頬をそっと撫でて苦笑いした。
「それより、謝らないといけないのはもしかしたら俺のほうなのかも。俺は、俺の身勝手さで暖乃のことを引き留めたから。暖乃が赤信号で飛び出したとき、横断歩道の向こうに藤沼くんがいたんだよね?」
「え、視えて、たんですか?」
ドキリとして訊ね返すと、一貴さんが「やっぱり……」と唇を歪めた。
「暖乃が深刻な顔をして家を出て行ったあと、妙に不安になってすぐにあとを追いかけたんだ。今追いかけなかったら、暖乃を永遠に失ってしまうような気がして。ようやく駅前の横断歩道で追いついたと思ったら、向こう側に藤沼くんに似た影が立っていて。赤信号なのに、暖乃が彼に向って走り出していくからものすごく焦った。暖乃が連れて行かれちゃうんじゃないかと思って」
珍しく泣きそうな表情を浮かべている一貴さんが、私を引き寄せて抱きしめる。



