◇
駅前の横断歩道でバイクと接触した私たちは幸いにも軽傷で済み、バイクを運転していた男性にも大きなケガはなかった。
警察を呼んで事故の事情説明をしたあと、私を庇ってアスファルトに頭を打った可能性がある一貴さんは、念のために病院で検査を受けた。
深夜を過ぎて帰宅したときには、私と一貴さんもひどく疲れていて。お互いに無言のままで寝室のベッドに倒れこんでしまった。
「暖乃、腕のとこ。ちょっと擦り傷ができてる」
左隣にで寝ころんでいた一貴さんが、ちらっと横目に見ながら私の左腕を持ち上げる。
事故のとき、後ろから私に向かって飛び出してきた一貴さんが庇ってくれたおかげで、私はほぼ無傷だった。
一貴さんの胸に抱きかかえられながらアスファルトに転がったから、頭も打っていない。
一貴さんのいう擦り傷だって、たいしたことない。
それなのに、一貴さんは持ち上げた腕に唇を付けると、傷口をそっと舐めてきた。
一貴さんの舌先がかすり傷に触れると、小さな傷口がなぜがズキズキと沁みる。
アスファルトに身体を打ち付けた一貴さんのほうがよほどひどいケガをしているのに。かすり傷が沁みて、今にも泣きそうだった。



