「一貴さん、ちょっと出てきます。すぐ戻るので」

「え、暖乃、どこに行くの? もう夜遅いのに……」

一貴さんが、私の服の裾をつかむ。

彼の手を振り解くのは心苦しかったけれど、透也を探しに行きたいという私の意志は曲げられなかった。


「ごめんなさい……」

もしかしたら、強く引き止められるかもしれない。そう思ったけれど、一貴さんは何も言わずに服の裾をつかむ手を解いた。

少し哀しそうな目で私を見つめる一貴さんは、最近の私の気持ちのブレに気が付いていたのかもしれない。


「ごめんなさい」

顔を逸らして、もう一度つぶやく。

しばらく一貴さんの反応を待ってみたけれど、彼は何も言わなかった。

入籍直前で、この結婚は破談になるかもしれない。ふと、そんな可能性が頭を過る。

それでも、透也を追いかけなければという衝動を抑えることができなくて。私は一貴さんを残して、玄関を飛び出した。