私から離れられなかったと言っていたはずの透也が、ドアをすり抜けていったまま戻ってこない。

以前は帰ろうとしたのに、私の元に引き戻されたと言っていたけど……。あれは透也の嘘だったのだろうか。それとも、私に愛想が尽きて、未練が消えてしまった……?

だとしたら、透也はもう戻ってこないかもしれない。

こんなふうにケンカ別れしたかったわけじゃないのに。

「さよなら」は、二度目でもやっぱり全然うまくいかない。


それでもこのままにしておけなくて、玄関を見つめながら立ち上がる。まだその辺にいるだろうか。

そのとき、私の足元に倒れていた一貴さんの手がピクリと動いた。


「……っ、はる、の? 俺、また記憶が……」

床に胡座をかいて座った一貴さんが、顔を顰めて額を押さえる。

透也に勝手に身体を使われたせいで、頭痛がするのかもしれない。

一貴さんのことは心配だったけれど、最低なことに私は目の前の彼よりもドアの向こうに消えた透也のことが気にかかって仕方なかった。