「おかえりなさい」

仕事帰りに一貴さんを玄関まで出迎えると、片手でネクタイを緩めた彼が頭を低くして私にキスをしてきた。

出迎えにくっついてきている透也の視線を気にしながら一貴さんのことを見上げると、ふっと目を細めた彼が私の頬に手を伸ばしてもう一度顔を寄せてくる。


「ただいま、暖乃」

一貴さんが私に唇を寄せながら、甘い声でささやく。

もう一度唇が合わさってくるのを感じて目を閉じると、一貴さんが薄く開いた唇の隙間からそっと舌先を差し入れてきた。

ゆっくりと食むように何度かキスをされて、微かに肩が揺れる。これ以上はまずい。


「一貴さ、ん……」

危険を察知して一貴さんの胸を遠慮がちに向こうへと押しやろうとすると、それまで優しく大切そうに私に頬に触れていた彼の手が、急に強い力で私の肩をつかんだ。

しまった、と思ったときにはもう遅くて。急に荒っぽくなった一貴さんが、私の背中をドンッと廊下の壁に押し付けてくる。

今度は一貴さんの胸を力いっぱい押しのけようとしたけれど、目の前に立ちはだかった彼の身体はビクともせず、それどころか私が逃げられないように迫ってきた。