暁のオイディプス

 「高政の願いは何だ?」


 夜が静かに更けてきた。


 雨上がりの霧が少し出て心配したけれど、時間が経つにつれ霧は晴れ、空にはまばゆいばかりの星たちが。


 雨が全ての汚れを流し去ってくれたようだ。


 ……その昔、織姫と彦星という夫婦がいて、互いに深く愛し合っていたのだが、日々の生活に流され、仕事をさぼるようになったため天帝の怒りに触れて引き裂かれてしまう。


 しかし年に一度、会うことを許されたのが七夕の夜。


 天の川を挟んで輝く織姫星(こと座のベガ)と彦星(わし座のアルタイル)は、この夜だけ天の川を越えて、互いの存在を確かめることができる。


 一年に一度だなんて冗談じゃない、と呆れ果てる私に対し。


 生きていて、お互いの想いが通じ合えるのであれば、一年に一度でも構わないと語る有明。


 おそらく自らの立場に照らし合わせて、そう語ったのだと思う。


 引き離されたままで生きるよりは、たとえ一年に一度であろうと、その手を取り合えるのならば。


 「私の願いは、一年に一度なんて条件なしで、有明と生涯を共にすること」


 「いや、もっと別の願いというか、斎藤家の嫡男としての心構えというか……」


 お互いの気持ちが結び付けられているのはすでに分かっているからか、有明は別の質問をしてきた。


 「そうだな……。前にも話したかもしれないけれど、いずれ父から家督を継承したならば、もっと美濃を豊かな国にしたい。戦という手段を用いることなく平和に」


 天の川を眺めていたくて、私と有明は祠を出て軒先に腰掛け、空を見上げながら互いの夢を語り始めた。