暁のオイディプス

 「せっかく美濃の支配者・斎藤家の嫡男として生まれてきたのだから、それをもっと利用してやろうとは思わないのか」


 有明の言葉が胸に刺さる。


 「私も……。すでに落ちぶれてしまっているとはいえ、美濃守護・土岐家の姫として生を受けた。家柄にも富にも恵まれているものの、屋敷から出ることすら叶わぬ不自由な身の上。常にどこかへはばたきたいと願ってはいたものの、果たせないまま時は過ぎ……。だが今、何もかも捨て去らずにいてよかったと心から思う。それは高政を支えるに相応しい家柄も、富も私は手にしているからだ」


 「有明、」


 「いずれ家督を継いで、斎藤家の当主となり……この美濃の事実上の支配者となれば、我が父も美濃守護の地位を高政に譲るべきひがいずれ訪れるはず」


 私が美濃守護に?


 守護といえば上杉家とか大内家とか、今の足利(室町)幕府ができた初期の頃からずっと続く名門家ばかり。


 その中に成り上がりの斎藤家が加わる日が来ると?


 「その日まで私が、高政を支えるから」


 有明と人生を共にすれば、斎藤家のみならず土岐家の栄光をも手に入れることができるかもしれない。


 いやそんな打算よりも、私は心から有明を必要としており、共に生きたいと願っている。


 「高政、空に天の川が見える」


 もう一度この腕に抱きしめたいと願ったが、有明の視線は私から夜空へと移っていた。


 「忘れていた、今宵は七夕ではないか」


 そうだ、ゴタゴタして忘れていたけれど、今夜は七月七日、七夕の夜だった。


 笹の葉も短冊もないけれど、願い事をしなければ。