暁のオイディプス

 「何もかも捨てる、だと?」


 久しぶりに有明が口を開いた。


 「そう。二人きりで京に行って、人生を一から始めるんだ」


 想像しただけでも胸が高鳴る。


 有明と手に手を取ってこの美濃から逃れ、京で二人きりの日々を歩み出す。


 誰にも邪魔されない、自由な未来へと向かって……。


 「斉藤高政の名を捨てるのか?」


 「もちろん。こんなわずらわしいしがらみなど、何もかも捨て去ろう。家も名も何も要らない。有明さえいれば」


 「何もかも捨てて、京でどうやって生きていく気だ」


 「本気になれば、何だってできるさ。有明がいれば、どんな苦難も乗り越えられる」


 有明と二人で生きていけると考えただけで楽しみでたまらず、抱きしめる腕の力が強まった。


 ところが、


 「斎藤家を捨て、嫡男の地位を捨て、名まで捨て去って……京で生きていけるわけがないだろう。私は嫌だ」


 予想外の拒絶で、有明は私の腕から逃れた。