暁のオイディプス

 「できもしないことを、口にするのはよしてくれ。それはもはや嘘の領域……」


 「私は本気だ」


 足を引きずり、祠の窓辺から空を見上げて天候を確認していた有明の元に歩み寄り、背中からそっと抱きしめた。


 こんなにそばで互いの熱を感じるのは、初めての経験。


 その瞬間、有明の体がびくっと震えた。


 拒絶されるかと思った。


 でも斬られても構わないとまで思えるほどに、有明のことが好きだった。


 「斎藤家の家督なんてどうでもいい。美濃を治めるなんて私でなくてもいいこと。私には有明さえいればいい」


 腕の中の有明は無言のまま。


 「何もかも捨てて京へ行こう。京で二人きりで生きていこう」


 国より家督より有明が必要……それが私の最大限の告白だった。


 父との関係、斎藤家嫡男としての重圧など、私を取り囲む全てのものから逃げたかった。


 わずらわしい全ての重しを振り払って、ここではないどこかへ旅立ってしまいたい。


 心からそう願った。


 昔から心の奥底に宿していた願望に、今は有明が加わった。


 有明と一緒に逃げたい……。