暁のオイディプス

 「父がいつまでも反対するのなら、こっちにも考えがある。いざとなったら抗議の意を込めて、腹を切る心づもりだ」


 「腹を切るだと?」


 あまりに突拍子もない私の言葉に、有明は思わず振り返って笑い出した。


 「ばかを申すな。死んでしまったら何もかも終わりではないか」


 「有明と一緒になれないのなら、死んでもいい」


 「高政……」


 「それくらいせねば、父に私の覚悟のほどが伝わらないならば」


 「もったいない……ではないか。せっかく人も羨む、美濃の支配者斎藤家の嫡男として生まれたのに」


 「どこが羨ましいものか。私にとっては重荷ばかりだ。戦だとか、嫡男だとか、面倒くさいゴタゴタはもうたくさんだ。有明、私と一緒に京に行こう」


 「京に? 先ほど今日まで馬を飛ばそうとした私を妨げたばかりなのに」


 「改めて、私と共に京に行こう。この美濃を捨てて」


 「高政……」


 しばし沈黙が祠の中を包み込んだ。


 激しい夕立はいつの間にか止んでいたようで、祠の外からは虫の声が聞こえてきた。