暁のオイディプス

 「退屈な毎日だから、屋敷に出入りの医師にあれこれ教えてもらった」


 嫁に出されることもなく、長く土岐家の奥屋敷で退屈な日々を過ごしてきたという。


 あてのない日々の中、目先の遊びなどに溺れてしまう名門家の者どもは多いと聞くが、有明はありあまる時間を教養を高めるために有効活用し、医学の手ほどきまでも受けていると聞いて驚いた。


 「薬の調合なども学んだので、高政が病の時は症状に合わせて薬を準備できるぞ」


 そう告げて微笑む有明が、この上なく頼もしく感じられた。


 「有明、やはり私の妻となるべき姫は有明しかいない。これから先も、ずっと私のそばで」


 「マムシが反対しているのだろう? マムシがいる限り、私たちはこのまま……」


 以前から私は有明を妻にと望んでいるのに、父・斎藤利政の反対に遭って話は凍結状態だ。


 いつまでも進展しない婚姻話に有明は半ばあきらめ状態で、現に今も結婚の話をほのめかした途端目を逸らし、背を向けてしまった。


 「大丈夫だ、何とかなる。いずれ私が家督を継いだら」


 「だから……、いつも言ってる通り、その頃には私は白髪の老婆になってしまっているのだから」


 刀で刺されても、毒を盛られても死ななそうな父を思い浮かべるたび、有明のその言葉に返す言葉が見つからないままだ。