暁のオイディプス

 「どこが痛むのか、診せてみろ、高政」


 有明が祠の中に戻ってきて、私の足首に触れた。


 「だ、大丈夫だ。このまま安静にしているから」


 体に触れられるのが恥ずかしくて、有明から離れようとしたものの、痛みで足を動かせない。


 「適切な応急処置をせねば、将来歩けなくなったり、馬に乗れなくなることもあり得る。そうなってはまずいであろう?」


 「……」


 歩行に障害があったり、戦の際に馬に乗れないようでは、斎藤家の嫡男としてあるまじき姿だ。


 そんなことになっては父は激怒し、嫡男の座を私から取り上げ、孫四郎などに与えかねない。


 だが治療をしようにも、ここには医師など……。


 「……大丈夫だ。骨は折れていないようだ」


 有明が私の足首を押したり力を加えたりして、患部がどこであるか調べていた。


 「足首の後ろにある、太い腱が切れていたりしたら厄介だが、その脇にある細い腱を痛めたようだ。足首を保護したほうがいいが、ここに包帯などはないな……」


 有明は祠の中を見回したが、目ぼしいものは見当たらなかった。


 代わりに外に置いて、屋根から流れ落ちて来る雨水を溜めていた桶を持ち込み、私の足首を入れた。


 「準備ができるまで、ここで患部を冷やしていてくれ」


 「準備?」


  有明は自らが着用していた薄手の羽織の袖の部分を、思い切り引き裂いた。


 「お、おい。何してるんだ」


 「これを細く切って、包帯の代わりに使う」


 「何だって。せっかくの羽織を。もったいない」


 「まずは応急処置だ」


 細く刻んで包帯代わりとなった羽織のなれの果ては、私の足首にきつく巻かれた。


 「動かせば悪化させるから、きつく固定したからな」


 「有明は……、医学の知識もあるのか?」


  まるで医師のようにてきぱきと処置を済ます様子を、私はただ感心しながら眺めていた。