暁のオイディプス

 「この草原の道はやがて、京の都へと続いているのだな」


 しばらく馬を走らせて、岡の上までたどり着いた。


 小高い丘から見下ろすと、ずっと草原が広がっていて、その先は森に覆われ地平線を隠していた。


 「まっすぐ進めば、いずれは隣国の近江(現在の滋賀県)に至り、淡海の海(おうみのみ;現在の琵琶湖)を通り過ぎ、さらにいくつかの山を越えて、ようやく京の都は近付いてくる」


 私も京の都に足を踏み入れたことはないので、全ては想像の世界だった。


 それにしても今日は快晴で、真っ青な空がどこまでも広がっている。


 青い空と深い緑の森が混ざり合う辺りまで行けば、もうすぐそこに都があるような錯覚にとらわれる。


 「このまままっすぐ進んで、都まで行ってきたいな」


 有明がとんでもないことを言い出した。


 「無茶だ。日帰りできるような距離ではない」


 冗談だと思って苦笑したところ、


 「こんなに天候に恵まれることなど、なかなかあることではない。上洛するなら今だぞ」


 私の不意を突いて、有明は再び馬を走らせた。


 「冗談じゃない。途中で日は沈んでしまうぞ」


 有明は聞く耳を持たず、ものすごい速度で走り出した。


 まさかとは思うが、このまま進み続けて隣国近江の浅井領に入り込んでしまえば、大問題になる。


 追いかけざるを得なかったが、またしてもなかなか追いつけないまま進み続けた。