「だめだ。絶対にだめだ」


 晩春のある夕暮れ。


 父・斎藤利政と二人きりの際、また嫁取りの話をしてきたので、思い切って意見した。


 会ったこともない他国の姫よりも、土岐家の姫君のほうが家柄的にもこの上ないのではないかと。


 「なぜです。他国の姫ですと、両家の結びつきには好都合かもしれませんが、その家が敵方につこうものなら離縁しなければなりません。そのような危険を鑑みるに、御屋形様の姫を娶ったほうが、今後特になることが多いように考えます。家柄のみならず、人柄も私にはもったいないくらいの姫でらっしゃいます」


 「……そなた、土岐の姫君に会ったのか?」


 「……」


 「御屋形様に命じられでもしたのか」


 「いえ、そのようなことは何も。ただ私の判断で」


 「いずれにしても、あの姫君はだめだ」


 繰り返し言い放ち、父は一瞬庭の向こうの空を見上げた。


 その方角はちょうど、土岐家の館のある方角だった。


 「……私は、土岐家の有明姫以外を妻に迎える気はありません」


 最近斎藤家内で実績を積み上げてきているという自負が、私を強気にさせた。


 すると父は、


 「どうしてもあの姫がいいと申すのならば、条件がある」


 「条件……」


 私の胸は高鳴った。


 どうせ政務に励めとか、戦で手柄を挙げろとか、そんなものだろうと思った。


 その程度のことならば、どんなことでも可能なような気がした。


 有明姫と生涯を共にできるのならば。