美濃に冬が訪れた。


 この辺りは深い雪に覆われることはないが、内陸なのでかなり冷える。


 ある冬の朝方のことだった。


 『枕草子』に「冬はつとめて」という一節があり、冬で一番魅力的なのは早朝で、雪が降った朝は言うまでもなく……などと述べているが、寒いだけで冬の朝なんて好きではない。


 起きるのも嫌で、もっと寝ていたいが、武家の嫡男としてやることがたくさんあるので、いつまでも寝てはいられない。


 起きて身支度をし、業務の準備をしていた。


 早朝は太陽の光が射し込んで来ていたのに、いつの間にか曇ってしまったようだ。


 そればかりか雪が降り始めていた。


 「積もらなければいいが」


 雪が積もると馬が脚を滑らせる危険性があるため、馬に乗って歩けなくなる。


 徒歩で移動することになるし、地面もぬかるんで嫌だな……などと考えていた時。


 「若殿」


 家人が軒先に駆け寄ってきた。


 文の入った箱を手にしている。


 (有明姫からだ)


 品の良い文箱を一目見ただけで、それは姫からの文であることが察せられる。


 さりげなく受け取り、部屋へと急いで箱を開ける。


 いつも通りの流れるような文字であるが……。


 「え……」


 その先に、不吉な言葉が目に入った。