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 私が有明姫と文をかわす日々が始まった。


 父である土岐の御屋形様が無理矢理話を進めただけで、姫は迷惑しているのではと危惧していたので、最初の返事がすぐに届いた時には心から安堵した。


 高貴な方々は、身の回りに達筆な者が仕えており、手紙などは代筆であることが多いと聞くが……もしこの文が姫の直筆であればとても綺麗な文字だ。


 初めはお互いの生い立ちなどを大まかに語り、その後は好きな文学作品やお気に入りの和歌についてなどが話題が中心となった。


 二人とも『源氏物語』を愛読しており、好きな登場人物や印象に残る場面など、話は尽きなかった。


 毎回、姫の教養の高さには、気後れしてばかりで。


 私の知らない和歌に話が及んだ時は、慌てて光秀に問い合わせて取り繕ったこともあった。


 姫の提供する話題に必死でついていくことは大変だったが、その分ためになったし、刺激も大きかった。


 ……もちろん姫との交流に関しては、父には隠していた。


 ばれたらどんな騒ぎになるか、想像しただけでうんざりする。


 姫とのかけがえのない絆に邪魔が入らぬよう、取り次ぎの者以外には決して見つからぬよう、密かに交流を育んだ。