「まあ気になさらないことです。大殿も若殿のためを思って、あのように言われただけですから」


 今日も帰り道、光秀に励まされていた。


 光秀は破天荒な人物というわけではないけれど、文武両道でいい意味で目立つので、これまた父のお気に入りだ。


 「そうだ光秀。聞きたいことがあったのだが」


 「どのようなことでしょうか」


 「土岐の御屋形様に関してだが……、御屋形様の御子は何人ほどいらっしゃるか存じておるか」


 「土岐頼芸様のですか? ……ご嫡男の他、男子が数名おられるとは聞いていますが」


 「では姫についてはどうだ」


 「姫君ですか? ちょっと聞き及ばないですね」


 「奥方についてはどうだ。正室は近江の六角家から輿入れなさったが、他の側室の方々は」


 「側室は、若殿の亡き母上以外の方に関しては……。でも、私より若殿のほうが詳しいのではないのですか? 時々土岐の御屋形様の元へ、使いで参っているではありませんか」


 「そうだが、なかなかご家族の話題にはならないから。たぶん私の母が、遠い昔は御屋形様の側室だった過去があるから、気を遣われて話題を避けてるような気もして。だから御子や奥方などについて知っておきたかったんだ」


 光秀は勘が鋭いので、この辺りで話題を変えた。


 結局あの姫君に関しては、正体が分からずじまいだった。