……そんなこと、言われたって困る。


 越前の朝倉義景なんて、先祖伝来の豊かな越前の地を相続することが、生まれながらに定められている。


 家柄も豊かさも私の場合とは比べ物にならないし、朝倉一族の長老や重臣たちが団結して若き当主を支えている。


 一緒にしないでくれ!


 公方様(足利義輝)なんて論外だ。


 長引く戦乱で衰えたとはいえ、室町幕府将軍としての栄誉に包まれ、全国幾千幾万の武士の頂点に立たれる存在だ。


 それに引き換え私なんて、ようやく美濃一国の実権を手にしたばかりの斎藤家の嫡男に過ぎない。


 新興の斎藤家は、旧支配者である土岐家と土着の諸豪族たちを武力で押さえつけてはいるものの、かなり不安定な立場だ。


 すると父は、さらなる比較対象を与えてきた。


 「尾張の織田信長も若年でありながらすでに、尾張国内での勢力拡大に際し様々な意見を述べて父を助けていると聞く」


 異母妹帰蝶が嫁いだ、尾張の織田信長。


 当然会ったことなどないが、あの帰蝶とかなり仲が良いということは、かなりくせのある人物だと予想される。


 だが父は、破天荒な者を好む傾向がある。


 私のように地味に物事にこつこつ取り込むような者よりも、言動が派手で目立つ人物のほうが好きなのだ。